タイムライン 時間に触れるためのいくつかの方法 | TIMELINE: Several ways to touch time

「タイムライン」展 大野綾子作品の搬入・搬出・展示

  • インタビュアー:田口かおり、加藤巧
  • 2019年4月22日
  • 「タイムライン」展 設営現場にて
田口複雑な外観の立体作品や、取り扱いがデリケートな作品を海外などに輸送するとき、用意するのが「ハンドリングレポート」つまり、作品の取り扱い仕様書です。具体的には、「どこを持って欲しい」「ここは持たないで」と言った指示など、どうすれば作品の展示がスムーズに行えるか、展示経験を元にした助言を書き起こしていく類の文書です。大野さんが今回展示した作品に関して、今後、同条件で展示を行うことがあれば、どのような情報を残しうるのか、お話を伺えますか。
加藤ここで想定するのは「大野さんが展示の場に立ち会えない状況で、誰かが代わりに作品を展示しなくてはならないとき」です。
大野今回の《ねがう人、たてる人》の経験から言うと、展示台に作品を「入れる」のが初めてだったので、作品を吊って徐々にスライドさせながら傾けて入れていく工程が一つ、新しい挑戦でした。展示台の中央部に枠があって、作品をストンと上から降ろすわけにはいかなかった。スライドさせるにも、作品をどうしても傾けなくてはいけませんでした。バランスが崩れて三又が倒れる可能性があるので、重心をまず、きちんと取るのが大事です。作品に傾斜をつけるのは、人力で対応しました。作品を下から支えることができるように、展示台の周囲の枠を全て外して、展示を行なっています。また、作品がケースの中で擦れると、ケース内の台紙が破れることがあるので、ケース内を養生して傷がつかないようにしてからゆっくり設置していきました。
田口立体作品を設置するとき、作品と床が接触する場所に差し込む「擦れ防止」の養生は、可能な限り人目につかないように、ということをこれまでは意識してきましたが、《ねがう人、たてる人》ではあえて見えるように、作品とある種一体化して意味を持つような形を取っているところが特徴的ですよね。
加藤展示工夫上に「遊び」が生まれているわけですよね。
大野鉄板を切るのと石を切るのは同じような感覚なんです。
加藤今回、作品を展示するにあたって何人くらいで作業なさったか、教えてください。
大野トラックから作品を降ろしたのは男性4人ですね。三又の扱いに関しては、最低3人、できれば4人いると良いなと思います。作品を吊る人1人、支える人2人、スライドさせる人1人、という感じで。《ねがう人、たてる人》は基本的には2本のチェーンブロックで吊りますが、今回は1本のみで吊りました。《ねがう人、たてる人》の展示方法は多様で、野外にも設置可能です。ただし平らな面に置く、ということを想定しています。土の上に置いても良いのですけれど、倒れる可能性があるので。

《ねがう人、たてる人》展示風景

田口作品を支えているのは、中央部に入っている心棒ですよね。
大野そうです。加えて、頭のところ、脚のところ、合わせて3点が地に着いて安定する構造です。今回は使っていませんが、頭のところと脚のところにも、ずれ防止(まわりどめ)の小さな穴があけてあります。展示場所によってどこまで、どれを使うか決めることができます。さっきの話のように、野外で低い位置に展示した場合などには、ふとした時に鑑賞者の足が当たったりして作品がぐるっと回って怪我をする可能性があるので、そういうことが起こりそうだと考えられる際には、ずれ防止も施します。そう色々考えてみると、安全面に配慮するなら、台などの上に作品を展示して、少し高さを出していただくのが良いかもしれませんね。
ただ、どういう場所においても、どんな風に見えても作品が作品として成り立つような方法を考えるのが今は楽しいです。その場の「場所性」によって、展示方法も変えていっていい、そんな風に思っています。
加藤今回、展示は大変でした?
大野思っていたほどではなかったです。三又が使えて、きちんと吊ることができれば、《ねがう人、たてる人》は大丈夫。人力で持ち上げてあの高さのケースに入れるとしたら、すごく大変だったでしょうけれど(笑)。
田口《植物と花(草)》《さかなとして暮らす》《水中のとき陸と私たち》についても、展示時のお話を少し伺わせていただけますか?
大野《植物と花(草)》は、《ねがう人、たてる人》同様、今回、展示ケースの中に入れましたが、上からストンと置くだけで、シンプルです。展示ケースの中を養生して、位置を決めて設置して、そのあと、養生で使った材を抜き取ります。《さかなとして暮らす》も場所を決めたら、置くだけです。
田口何れにせよ、作品を取り扱う際には、素手ではない方がいいですね。
大野そうですね、手で触れると手の油が染み込んでしまったりするので……「タイムライン」展では二つの作品を展示ケースに入れたことで「物理的に作品に触れられない」状態になりましたが、私にとっては、これは新鮮でした。
田口輸送時には、どのような状態で作品は運ばれてきたのでしょうか?
大野梱包材で作品を梱包して、木枠で周囲を固定した状態で輸送しています。木枠がないと、やはり作品を取り扱うのが難しくなるので。
加藤《水中のとき陸と私たち》は、屏風の形をしたドローイング作品ですが、こちらの作品には「表」「裏」は明確にあるのでしょうか?

《さかなとして暮らす》開梱時

上:《水中のとき陸と私たち》下:《さかなとして暮らす》展示風景

大野いえ、特にこちらが表、こちらが裏、という風には決めていません。
加藤ドローイングの位置ですが、これは、展示会場によって入れ替えられたりもするのでしょうか?
大野ドローイングは、今回制作したものが基本的に一組となっていて、その中での時間軸が定められています。ただ、そこに何かを足したり、引いたり、ということは、今後可能かもしれませんね。《水中のとき陸と私たち》設置の方法は簡単で、基本的には屏風なので、広げるだけです。ドローイングは別に梱包して輸送し、その場で、磁石で固定します。
田口《さかなとして暮らす》と《水中のとき陸と私たち》は、一組としてこのように合わせて展示されることが望ましい作品ですか?
大野必ずしもそういうわけではないのですが、今回は《さかなとして暮らす》の背景に《水中のとき陸と私たち》がある、という置き方にしています。会場の動線を意識しているので、屏風の空間部から、その向こうにある《植物と花(草)》と《ねがう人、たてる人》が見え、また、他の作家による作品も見えるようにしたいなと思いました。